ハタ・ヨガ習学の前に
人間たちって
特急列車に乗っているのに、何を探しているのかもう分からないんだね。
だからせかせか動いたり、同じところをぐるぐる回ったり……
習学の前に
ハタ・ヨガの原語である『haṭha』は、「ちから、強さ」などを意味しています。ここでの「ちから」とは、おそらく「筋力」を示しています。つまりハタ・ヨガとは、筋力を使った身体的操作によって、心身に作用する停滞質と激動質を減退させ、純粋質を増進させていくヨガだと言えるでしょう。
そして、それが真実の悟りを目的とした行法であることは確かです。
停滞質とは、心身の活動性を下げる作用とされ、心理的には落ち込んで沈むというような鎮静状態へ導き、生理的には腑抜けて重怠くて動けないというような弛緩状態へ導く性質です。激動質とは、心身の活動性を上げる作用とされ、心理的には浮かれて落ち着かないというような興奮状態へ導き、生理的にはリキんで軽弾みが止まらないというような緊張状態へ導く性質です。
ハタ・ヨガの見地からすると、停滞質は月気道を生気が流れるときの作用とされ、激動質は太陽気道を生気が流れるときの作用とされているようです。そして、これら二気道への流れを消滅する行法として、様々な身体的操作を用いることが、教典『ハタ・ヨガ・プラディーピカー』に示されています。
さて、この解説書は、今ここでお話したことや、古来インドから伝えられてきたであろう秘伝扇などは解説していません。それとは対局の、古今東西、人類が衣服を身にまとう以前から自然と行われてきたであろう伸びと溜息(締付と脱力)について解説しています。
言葉に惑わされてはいけません。伸びとは筋肉を引き伸ばすいわゆるストレッチとは異なる行為です。それは寝起きや仕事の合間に、身体を「う"ぅ〜」とリキませ筋肉を緊張させる反応です。また溜息とは疲れたときなどに、息を「はぁ〜」と抜いて筋肉を弛緩させる反応です。
ハタ・ヨガでは、筋肉を緊張させる技法を締付と呼び、各行法の中心としています。特に体位行法から進んだ調気行法、印相行法では腹、肛門、喉の三処を同時に緊張させる三重の締付と呼ばれる技法を中心としています。しかし、伸びをするときその締付は、いともたやすく、まったく自然と起こるのです。
白日の下に晒されたこの心髄を、落ち込まず(停滞せず)、浮足立たず(激動せず)、落ち着いて(純粋に)実践し、心身を調えていきましょう。
2019.3.26 尾山 広平