【印相①】上昇の締付

ハタ・ヨガを一から習う

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生気はこの締付に縛られて、中央気道の中を天翔けり上がるゆえに、ヨガ行者たちは上昇と呼んだ。

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オオドリが疲れを知らず大空に翔り上がることが、すなわち上昇である。そのための締付を次に説明しよう。

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ヘソの下から上に至るまで、腹部を引っ込める。この上昇の締付は死神である象を追い散らすライオンのようなものである。

3-058

ヨガ教師の教えるところでは、上昇はいつも自然に起こる状態-息を充分に吐き出したさいには-である。

怠らずにこの印相を修習するならば、老人になっても若々しい。

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ヘソの上と下の腹部を力をいれて引っ込める。この印相を6ヶ月間行じたならば、死に打ち克つこと疑いなし。

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まことに、上昇という締付はあらゆる締付のなかで最上である。上昇の締付をしっかりと行ずれば、解脱はおなずから来る。

『ハタ・ヨガ・プラディーピカー』

① 上昇の締付:ウディヤーナ・バンダ

腹周辺の締付を行う印相である。ここではこれを鼠蹊窩の締付と、腋窩の締付の合わせ技とする。

上昇の締付の意図は、三重の締付を感得することである。

締付の根本

上昇の締付こそが、締付の動力源である。上昇の締付なしに締付は極まらない。即ち、これまで紹介してきた体位の中に、脚(鼠蹊窩)と腕(腋窩)の締付は、必ず含まれていなければならない。

もしも上昇の締付が起っていないのであれば、それは締付をしているのではなく、ただ単に、締付をしているつもりなだけであり、形体を作ろうと無理してきた可能性が高い。

骨盤の収縮に伴う締付

息を充分に吐き出した際に主として起こるのが、骨盤の収縮と胸郭の収縮である。骨盤の収縮は、左右の腸骨上部が内方へ寄り合うように骨盤全体が収縮し、その中心にある下腹に生気が圧縮されて集中する状態である。これに伴うのが鼠蹊窩の締付である。胸郭の収縮は、左右の肋骨下部が内方へ寄り合うように胸郭全体が収縮し、その中心にある中胸に生気が圧縮されて集中する状態である。

胸郭の膨張に伴う締付

息を充分に吸い入れた際に主として起こるのが、胸郭の膨張である。左右の肋骨下部が外方へ離れ合うように胸郭全体が膨張し、下腹から胸中中胸に生気が吸引されて上昇する状態である。これに伴うのが腋窩の締付である。

三重の締付

骨盤を「ぎゅうううう」と収縮させながら、胸郭を「ふわ~~~~」と膨張させていくとき、即ち、上昇の締付を行うとき、自然と根の締付も網の締付も同時に補助し合っている。

無論、このとき足、手、顔など、他の部分にも自然と締付が起こり、全身と部分が補助し合っている。

<ひとつ>の方法

三重の締付とは、生気を中央気道に導く行法である。骨盤の収縮とは、生気を圧縮して中央気道に導く方法であり、胸郭の膨張とは、生気を吸引して中央気道に導く方法である。故に、骨盤の収縮により胸郭の膨張は補助され、胸郭の膨張により骨盤の収縮は補助される。

即ち、骨盤の収縮と胸郭の膨張は、生気を中央気道に導こうとする、同じ<ひとつ>の行法の側面である。

想像の活用

上昇の締付とは、水を汲み上げるポンプであるとイメージするとよい。骨盤の収縮は、生気を圧縮して押上げる動力源であり、胸郭の膨張は、生気を吸収して引き上げる動力源であり、ポンプなしに水が上昇することはないように、上昇の締付なしに生気が上昇する事は無い(締付が極まることはない)。

中央気道をストローに例えるなら、骨盤の収縮は、ストローの中を液体が上昇していくように、入り口付近をぎゅうと手で握っていくようなイメージであり、胸郭の膨張とは、ストローの中を液体が上昇していくように、息を吸っていくようなイメージである。

秘訣は、生気をぎゅううと圧縮上昇させていくように、穏やかに骨盤を圧縮させていくと同時に、生気をスーーっと吸引上昇させていくように、穏やかに胸郭を拡張させていくイメージをもつこと。

名前と幻想

上昇の締付とは、三重の締付そのものであり、局所的に捉えたときの名前が上昇の締付であり、全域的に捉えたときの名前が三重の締付である。上昇の締付とは、単に言葉上にだけある幻想に過ぎない。

全体一致の原理に基づき、無理のない印相を修習していきましょう。


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