2020-08-15

第18章 解放と放棄

バガヴァッド・ギーター:至高者の詩


第18章 解説

「解放と放棄」と題されているように、束縛からの解放と放棄について、クリシュナが説明しています。ここでの「解放」の原語は『mokṣa(モークシャ)』であり「解脱、自由、悟り」などを示し、「放棄」の原語は『sanyāsa(サンニャーサ)』であり「世俗的享楽を放棄すること」などを示しています。

いよいよ最終章です。

あらすじ

アルジュナが「放棄(サンニャーサ)」と「放棄(ティヤーガ)」について問います。

クリシュナが、愛欲に従った行為を放棄することをサンニャーサと呼び、行為の結果を放棄することをティヤーガと呼ぶと答えます。

続けて、ある賢者たちは「祭儀、布施、苦行」さえも捨てるべきと言うが、「祭儀、布施、苦行」は為すべき浄化行為であると前置きしてから「3種のティヤーガ」について説いていきます。

ティヤーガ
  1. 純粋質の放棄
  2. 果報を求めることを放棄して、定められた行為を遂行する
    無益な行為を恐れ避けず、有益な行為を欲し求めない

  3. 激動質の放棄(非放棄)
  4. 苦痛を恐れ避けるために、定められた行為を遂行しない

  5. 停滞質の放棄(非放棄)
  6. 定められた行為を遂行しない

そしてクリシュナが、身体を有している者にとって行為を放棄することは不可能であり、行為の結果を放棄する者こそが、放棄者(ティヤギー)と呼ばれると説明します。

続けてクリシュナが、行為の成熟(行為の放棄、行為の束縛からの解放)のために、理論的結論として知られている5つの要因について説いていきます。

行為の5要因
  1. 場(自然性:身体や時空間)
  2. 行為者(自然性:自我)
  3. 多様な器官(自然性)
  4. 多様な作用(自然性:気質)
  5. 神(意識性:自然性の支持者)

そして、「身体」「言葉」「心意」とによってどのような行為を為そうと、正当(神性)な行為であれ不当(魔性)な行為であれ、すべてはこの5つが要因であると説明します。

続けてクリシュナが、「知識」「知ること」「知る者」の3種が行為の誘因であり、「行為」「為すこと」「行為者」の3種が行為を構成していると説明し、自然の気質に従った「知識」と「行為」と「行為者」における3種を説いていきます。

純粋質
  1. 知識
  2. 分割されて見える万象を、分割されていない唯一不滅の存在と知る

  3. 行為
  4. 制御され、執着から離れて貪愛と憎悪なく、結果を求めずに遂行される

  5. 行為者
  6. 執着から解放され、私心を離れ、堅固さと熱心さに溢れ、成功不成功に動じない

激動質
  1. 知識
  2. 分割されて見える万象を、分割された別々の存在として知られる

  3. 行為
  4. 自我によって愛欲を満たすため、多大な苦労を伴い遂行される

  5. 行為者
  6. 激情に満ち、行為の結果を求め、貪欲で、暴力的で、不潔で、成功の喜びと不成功の悲しみを繰り返す

停滞質
  1. 知識
  2. 根拠も、意義もなく、個こそが全てであるかのように知られる

  3. 行為
  4. 結果、損失、傷害、力量を考慮せず、誤謬に基づいて遂行される

  5. 行為者
  6. 不摂生、非礼、頑迷、陰険、低俗、怠惰、無気力、鈍間

さらにクリシュナが自然の気質に従った「知見」「意志」「安楽」における3種について説いていきます。

純粋質
  1. 知見
  2. 外側へ向かうことと内側に向かうこと、為すべきことと為すべきではないこと、恐れるべきことと恐れるべきではないこと、束縛へ向かうことと解放に向かうことを理解する

  3. 意志
  4. ヨガによって思惟器官と気息作用、感覚器官を制止し、不動に留まろうとする

  5. 安楽
  6. 自己を覚ることによる。始めのうちは毒を飲むように苦しく、終わりには甘露を飲むように安らぐ

激動質
  1. 知見
  2. 義務と非義務、為すべきことと為すべきではないことを誤って理解する

  3. 意志
  4. 果報を期待して、義務を為そうと、愛欲を満たそうと、利徳を得ようとする

  5. 安楽
  6. 対象と感覚器官の接触による。始めのうちは甘露を飲むように喜び、終わりには毒を飲むように苦しむ

停滞質
  1. 知見
  2. 無智の闇に覆われ、義務と非義務、すべての物事を逆さまに理解する

  3. 意志
  4. 惰眠、恐れ、悲しみ、無気力、妄想を手放そうとしない

  5. 安楽
  6. 惰眠、不摂生、怠惰による。初めから終わりまで自分の本心を覆い隠している

続いてクリシュナが、自然の気質に従った「聖職者階級」「王族階級」「庶民階級」「従僕階級」それぞれの義務を説いていきます。

階級ごとの義務
  1. 聖職者階級
  2. 静寂、自制、苦行、清潔、寛容、誠実、智慧、識別智、聖典に対する信心

  3. 王族階級
  4. 戦いにおいて退却することのない勇気、指導力、情熱、堅固、俊敏、人々に対する慈悲

  5. 庶民階級
  6. 農耕、牧畜、商売

  7. 従僕階級
  8. 奉仕

そしてクリシュナが、貪愛憎悪から離れ、果報を求めることなく自然性に従った義務を遂行することは、万象を生みだすソレを、遍く満ちたソレを崇拝することになるため、人は達成に至ると説明します。

そして、ソレのみを拠り所としなさい。そうするのなら、ソノ恩寵により永遠至福の達成に導かれると告げます。

最後にクリシュナが「私は秘密のなかの秘密の智慧について言明した」と告げると、さらに「すべてのなかの極秘事項である最高の言葉を聞きなさい」と告げて次のように語ります。

65.

親愛なるあなたに私は言明します。私を思惟し、私を信愛し、私を祭祀し、私を礼拝するのなら、あなたは確実に私のもとに来ることでしょう。

66.

恐ることなくすべての教義を捨てさり、私だけを拠り所としなさい。私はあなたをすべての悲痛から解放させることでしょう。

ここでクリシュナが警告します。

警告

この秘密を、苦行をしていない者、私を信愛していない者、傾聴する気のない者、私を非難する者には、決して話してはいけません。

しかし「この極秘事項を、私を信愛する者たちに話す者は、私の最高の信愛者であり、その者は疑いなく私のもとに来る。人間のなかでその者たちより私に愛される者は誰もおらず、世界のなかでその者たちより愛しい者など私にはいない」と真理を寄与することの偉大さについて告げます。

そして「私たちのこの神聖な智慧の祭儀による智慧の対話を学習する者は誰であろうと、私を崇拝するようになる。不服のない信心深い者であるのなら誰でも、この対話を聞くだけでも解放され善行者たちの福徳世界に赴く」とこの『バガヴァッド・ギーター』を学習し、説かれている真理(至高者の言葉)を信じることの功徳について告げます。

最後の最後にクリシュナが、アルジュナに向かって「あなたはこれを集中して聞いいてきたか? あなたの無智蒙昧は消え失せたか?」と問います。

73.アルジュナが答える。

アチュータよ、あなたの恩寵によって迷妄は消えさり正気を取り戻しました。私は疑念が過ぎさった見地に立っています。私はあなたのご教示に従い(「私」を唯一の拠り所とし、不断に「私」に留まりながら義務を遂行し)ます


エピローグ

サンジャヤが2人の対話を賛美し、恩寵により最高の秘密であるヨガを聞くことができたと歓喜して、バガヴァッド・ギーターは終わりを迎えます。


繰り返し習う

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