正しい歩行
前々回と前回は、"脚と骨盤の一致の原理"と"腕と背骨の一致の原理"に焦点を当ててお話をしました。今回はその原理を、人類にとっての基本的な動作である「歩行」に応用していきましょう。
1.カメの歩みが遅い理由
もしもし かめよ かめさんよ
せかいのうちに おまえほど
あゆみの のろい ものはない
どうして そんなに のろいのか
石原和三郎『うさぎとかめ』より
お馴染みの童謡にあるように、カメは「動きが遅い」。いくら速いカメといえど目で追えるほどの速さで、ヨイショ、ヨイショ、ドッコイショといった感じです。一方、同じく爬虫類のトカゲは「動きが速い」。目にもとまらぬ速さで、シュルシュルシュルシュル~といった感じです。
カメとトカゲの違い
絵図1.カメ
絵図2.トカゲ
カメがトカゲのように、シュルシュルと自由自在に動き回ることができない大きな要因として、次の2つが推察できます。
- 甲羅があるため、身体が重い
- 甲羅があるため、背骨が動かない、あるいは動かしづらい
トカゲと違って、カメは身体が重いことに加え、背骨が固定されているので、動きの俊敏度、自由度が制限されています。
もしもトカゲの骨盤から頭蓋骨まで、背骨を棒のように固定したら……
脚と腕を使ってヨイショ、ヨイショ、ドッコイショと、カメのように筋力を使って頑張る動きになるのがイメージできるでしょうか。
ヒトも原理は同じです。カメのように体幹を固めて「歩く」という動作をすると、筋力に頼ったしんどい動きになり、トカゲのように体幹を固めず「歩く」という動作をすると、筋力に頼らない快適な動きになります。
2.全体位一致の原理に則した歩行
2−1.脚と骨盤と背骨のツナガリに従う
脚と骨盤の一致(2)でお話をしましたように、全体一致の身体では、左膝が曲がれば、主として骨盤は左旋回し、背骨は左捻転します(正確には背骨の後屈、左側屈も伴います)。右膝が曲がればその逆が起こります。
一致している絵図
ヒトの身体も、左右交互に膝を曲げれば、トカゲのように背骨は波打つものです。ところが一般的なヒトは、カメのように体幹を固定し身体を正面に向けて、ほとんど脚だけの動作になるものです。
一致していない絵図
「1、2、1、2」などと行進でもするかのように。
2−2.腕と背骨と骨盤のツナガリに従う
腕と背骨の一致でお話をしましたように、全体一致の身体では、左肘が曲がれば、主として背骨は左捻転し(正確には背骨の後屈、左側屈も伴います)、骨盤は左旋回します。右肘が曲がればその逆が起こります。
一致している絵図
ヒトの身体も、左右交互に肘を曲げれば、トカゲのように背骨は波打つものです。ところが一般的なヒトは、カメのように体幹を固定して、ほとんど腕だけの動作になるものです。
一致していない絵図
「ウィーン、ガシ」などと動くロボットであるかのように。
3.具体的な歩行の仕方
右足は前、左足は後(踵は床から離れている)の姿勢から、左足を前方に踏み出す動作を見てみます。
左膝を曲げていくと、 左足が前方へ振り出されていき、 骨盤が左旋回していき、 背骨は後屈、左捻転、左側屈していき、 腕は左肘が後方に引かれていき、 体重は右足の踵内側に乗っていき、 さらに 左足が前方へ振り出されていくと、 右踵は床から離れていき、 左足の踵の後外側が地面に触れる。
初めの姿勢と左右対称の姿勢になります。この姿勢から、右足を前方に踏み出す動作も見てみます。
右膝を曲げていくと、 右足が前方へ振り出されていき、 骨盤が右旋回していき、 背骨は後屈、右捻転、右側屈していき、 腕は右肘が後方に引かれていき、 体重は左足の踵内側に乗っていき、 さらに 右足が前方へ振り出されていくと、 左踵は床から離れていき、 右足の踵の後外側が地面に触れる。
この繰り返しが、快適な「歩行」です。
文字を追っても、とても解りずらいですね。アニメーションをご覧ください。要点は、後ろにある足が前に移動するときに、骨盤が旋回するということです。右足なら右旋回、左足なら左旋回です。
アニメーション
アニメ1.無理な歩行
アニメ2.合理的歩行
歩くときの足先の向きは、ほぼ前方を向きますが、わずかに外方を向くかもしれません。
腕は、走るときのように肘を適切に曲げておきます。そうすることで、上体の重み(勢力)が外側にもれず、下腹(中心)へと流れ、背骨の動きに合わせて前方回転運動をします。
4.まとめ
ヒトにとって最も基本的な動作である「歩行」が正常に機能しているか、あるいは誤作動を起こしているのかは、心身の状態にも大きく影響を与えていることでしょう。
どのような姿勢、動作でもそうですが、慣れきった姿勢や動作には、その重たさ、しんどさ、違和感などは感じられないものです。ですから、自身が知らず知らず身体を固定し、無理して頑張っているなんてことは、夢にも思わないのです。
全体一致するようになった後に、これまでの姿勢や動作と比較して初めて、その重たさ、しんどさ、違和感などが感じられるようになるものです。そして、自身が知らず知らず身体を固定し、いかに無理して頑張っていたのかを自覚できるのです。
この差の自覚が得られるまで、繰り返し練習してみましょう。そして、人生を軽快に、悠々と闊歩していきましょう。
決してカメには戻れないことでしょう。