下を向いた犬の体位
手首を痛めないための姿勢
前回は、膝を痛めないための「正しい起立動作と着座動作」についてのお話をしました。今回は、ヨガ愛好家には馴染み深いぶん、無理を持続していると手首の故障につながりかねない「下を向いた犬の体位(アド・ムカ・シュワ・アーサナ)」について習っていきましょう。
警告
実際に非常に多くの方が手首を痛めているであろうポーズです。まず、お手本自体が無理をしている姿勢のため、当然のことですが、痛めてしまった人に対して増々無理を重ねさせる指導がされています。
指導する側、指導される側ともども、本当に無理をしないとはどういうことなのかを理解することが大切です。
1.一般的な下を向いた犬の体位
「下を向いた犬の体位」は、太陽礼拝にも含まれているため一般的にも広く親しまれている体位で、「下を向いた犬のポーズ、ドッグポーズ、ダウンドック」などと呼ばれています。
1.姿形
まず、手首を痛めてしまう直接的な原因としては腕の状態です。次に、手首を痛めてしまう間接的な原因としては脚の状態です。
腕の姿形
一般的な腕の形体では、手先を真っ直ぐ前方へ向けて手のひら全体で床を捉えようとするためなのか、体側をストレッチしようとするためなのか、無理に腕を閉じよう(肩幅にしよう)と、無理に腕を内旋(内捻り)しようと、無理に腕を伸展しようと、無理に手のひらを張ろうなどと頑張っているので「不安定・不快適」であり、上腕、手首、指先など各所で勢力がぶつかり合い、各所に負担をかけることになります。
脚の姿形
一般的な脚の形体では、足先を真っ直ぐ前方へ向けて足のうら全体で床を捉えようとするためなのか、脚裏をストレッチしようとするためなのか、無理に脚を内旋(内捻り)しようと、無理に脚を伸展しようと、無理に踵を床に下ろそうなどと頑張っているので「不安定・不快適」であり、太腿、足首、足先など各所で勢力がぶつかり合い、各所に負担をかけることになります。
2.勢力
腕の勢力
一般的な腕の形体では、勢力は腋裏から掌底外側へという正道を流れません。絵図の矢印のように、勢力は床へではなく前方へと流れようとしているのに無理矢理に床へ流そうと頑張っています。
脚の勢力
一般手な脚の形体では、勢力は鼠蹊下から踵底内側へという正道を流れません。絵図の矢印のように、勢力は床へではなく前方へと流れようとしているのに無理矢理に床へ流そうと頑張っています。
要するに、このような腕と脚の状態によって勢力は正道を通ることができなくなります。骨盤は後傾し背骨は前屈しようとするため、勢力は身体の中央ではなく前方へ流れようとしています。にもかかわらず無理矢理に身体の中央を通して勢力を末端へ流そうと頑張っている訳です。
そして、そのシワ寄せが体重を支え、なおかつ無理を強いている手首に来てしまうのです。
2.無理のない下を向いた犬の体位
1.姿形
腕の姿形
無理のない腕の形体では、腕を内旋しておらず自然と手先は外方へ向き、自然と腕は肩幅より広く、自然と肘も指も屈曲して拇指球は浮き掌底外側で床を捉えているので「安定・快適」であり、各所で勢力がぶつかり合うこともなく、各所に負担をかけることもありません。
脚の姿形
無理のない脚の形体では、脚を内旋しておらず自然と足先は外方へ向き、自然と膝は屈曲して踵は浮き拇指球で床を捉えているので「安定・快適」であり、各所で勢力がぶつかり合うこともなく、各所に負担をかけることもありません。
2.勢力
腕の勢力
無理のない腕の形体では、勢力は腋裏から掌底外側へと正道を流れています。絵図の矢印のように、勢力は素直に床へと流れているので無理矢理に床へ流そうと頑張る必要はありません。
脚の勢力
無理のない脚の形体では、勢力は鼠蹊下から踵底内側へ、そして拇指球へと正道を流れています。絵図の矢印のように、勢力は素直に床へと流れているので無理矢理に床へ流そうと頑張る必要はありません。
補足.手のひらの勢力腋裏から尺骨を流れてきた勢力が、絵図の矢印のように掌底外側から小指薬指の付根側へ向かって流れていくとき、手首への負担は掛かりにくくなります。
要するに、このような腕と脚の状態によって勢力は正道を通ることができます。骨盤は前傾し背骨は後屈しようとするため、勢力は素直に身体の中央を流れています。ですから無理矢理に身体の中央を通して勢力を末端へ流そうと頑張る必要はない訳です。
そして、どこにもシワ寄せが起こることなく、伸び伸びとした快適で安定した姿勢となるのです。
補足
このように無理のない姿勢であれば、「んぐぐぐぐぐ~っ」と爽快に、伸び(締付)を極めることもできます。
そもそも、このポーズは犬が「んぐぐぐぐぐ~っ」と爽快に、伸びをする姿勢から発想したものではないでしょうか? 原点回帰。自然回帰。
無駄を取り除いた、無理のない姿勢を修習していきましょう。