2021-01-16

英雄の体位Ⅱ
下半身の勢力を調える

正しい姿勢を一から習う

前回は、手首を痛めないための「下を向いた犬の体位」についてのお話をしました。今回は、下半身の勢力を調える練習にもってこいの体位である「英雄の体位Ⅱ(ヴィーラバドラ・アーサナⅡ)」について習っていきましょう。

前回のレッスンはこちら

レッスン14

英雄の体位Ⅱ

1.一般的な英雄の体位Ⅱ

「英雄の体位Ⅱ」は、一般的にも広く親しまれている体位で、「英雄のポーズⅡ、戦士のポーズⅡ、ウォーリアーポーズⅡ」などと呼ばれています。

一般的な英雄の体位Ⅱ
← 前        後 →

無修正

一般的な英雄の体位Ⅱでは、前足先を真前まんまえへ方向づけ、後足先は真横へ方向づけています。また前手先を真前へ方向づけ、後手先は真後へ方向づけています。

一般的な英雄の体位Ⅱ

一般的な英雄の体位Ⅱ

真っ直ぐと前方へ向けた「前足向き」と「前膝向き」を一致させるために① 前脚(右脚)を外旋することと、真っ直ぐと前方へ向けた「前手向き」と正反対に②「後手向き」を真っ直ぐと後方へ向けることの2つが注意されています。

しかしながら、この2つの注意事項を同時に行うこと自体に矛盾があり、身体に無理を強いることになります。その理由を簡単に言えば、上半身と下半身の向きが一致していないからです。

修正1.下半身の向きに上半身の向きを一致させる

下半身の向きに上半身の向きを一致させる

下半身の向きに上半身の向きを一致させる

下半身の向きに上半身の向きを素直に一致させます。おそらくですが生徒さんのなかには、前手向きはともかく後手向きがこのように左に方向付いてしまい注意されることも多いいのではないでしょうか?

一般的なヨガ指導者には注意される姿勢ですが、後手が左に方向付いてしまうのがより無理のない姿勢です。

修正2.上半身の向きに下半身の向きを一致させる

上半身の向きに下半身の向きを一致させる

上半身の向きに下半身の向きを一致させる

上半身の向きに下半身の向きを素直に一致させます。おそらくですが生徒さんのなかには、前膝が左(内)に方向付いてしまい注意されることも多いいのではないでしょうか?(絵図では前膝向きに合わせて前足向きも変えています。)

一般的なヨガ指導者には注意される姿勢ですが、前膝が左に方向付いてしまうのがより無理のない姿勢です。

脚の状態

① 姿形

以下の3枚の絵図は、それぞれ足と膝の位置関係が異なった状態を示しています。

脛骨内側から踵へ流れている状態

脛骨前側から指球にへれている状態

脚の前側へ外れている状態

一般的な指導においては「前脚の膝は足首の真上に位置させる」や「前脚の膝は足先より前方へ出さない」などと指導されているようですが、これらは要点を外している指示といえます。

姿勢を調える本質は勢力をどこへどう流すのかというところにあるものです。

② 勢力

以下の3枚の絵図は、それぞれの姿勢において前脚を流れる勢力を示しています。

脛骨内側から踵へ流れている状態
① 脛骨内側から踵へ流れている状態

脛骨前側が指球へ流れている状態
② 脛骨前側から指球へ流れている状態

脚の前側へ外れている状態
③ 脚の前側へ外れている状態

③のように勢力が途切れている姿勢とは、筋力で身体を支えているので各筋肉や、膝、足首などに負担がかかります。

● 筋力と勢力

筋力を主とした姿勢は部分的である。一方、勢力を主とした姿勢は全体的であり、全身が協力した姿勢である。

それはまた、身体の重みを筋力ではなく、骨で支える姿形に調えることとも言える。例えば立位の場合は、頭蓋骨の重みは背骨へ、腕の重みは鎖骨・肩甲骨から背骨へ、上体の重みは背骨から骨盤へ、骨盤の重みは大腿骨・脛骨から踵骨へ、などと勢力が流れている姿勢である。

『ヨガの太陽礼拝』P30 1.調身行法 より

筋力によって姿形を調えることではなく、勢力を調えることに目を向ければ、身体を故障するような本末転倒な自体を招くことも減退していくことでしょう。

腕の状態

① 手指の状態

以下の3枚の絵図は、腕を外旋して右手のひらを真横に向けている状態です。

手指を伸ばした状態
① 手指を伸ばした状態

手指を開いた状態
② 手指を開いた状態

手指を緩めた状態
③ 手指を緩めた状態

一般的な英雄の体位では、①や②のように手指を伸ばしたり開いたりしています。

② 腕の状態

以下の3枚の絵図は、①や②のように手指を伸ばしたり開いたりすることなく、ただ手先まで勢力を通している状態です。

腕を外旋した状態
④ 腕を外旋した状態

腕を内旋した状態
⑤ 腕を内旋した状態

腕の基本の状態
⑥ 腕の基本の状態

一般的な英雄の体位では、④や⑤のように腕を外旋したり内旋したりしています。

● 身体の使い方(全体一致)

人為的で機械的な動作とは、記憶による観念(言葉と想像)に基づく動作である。また、左脳は言語を、右脳は想像を司るとも言われるように、それは頭脳(左脳と右脳)に基づく動作とも表現できる。「分かる」の言葉通り、頭脳による理解とは全体を部に分ける作業であり、頭脳は曖昧な境界線を嫌い、全体的な把握を苦手とし、明確な境界線を好み、部分的な把握を得意としている。

『脚』と聞けば脚を想像し、『腕』と聞けば腕を想像し、『前』と聞けば前を想像し、『後』と聞けば後を想像する。そして、それらの想像に従って身体を動かそうとする。それ故に、頭脳の発達した人類は、部分的な動作にならざるを得ないのである。だからこそ、修業心得を忘れずに精進されたし。

『ハタ・ヨガの修行法』P192 補.調気と締付より

おそらく一般的な体位では、『真っ直ぐ』と『前方』や『後方』へ伸ばそうとしたり、手のひらを『真下』や『真横』へ向けようとしたりなどを意図しているのでしょう。

それはまさに、頭脳の大好物であるハッキリと分かりやすい機械的な姿勢なのです。

2.無理のない英雄の体位Ⅱ

修正3.姿勢を調える

無理のない英雄の体位

無理のない英雄の体位

より正確に左踵底内側で床を後方向に捕えて「左鼠蹊下」と「左踵底内側」をツナグために骨盤向きを少し右回転し、後足向きを少し前方へ向けます。そして「脇裏」から「掌底外側」をツナグために腕の形体を変えています。

修正4.より快適・安定に調える

無理のない英雄の体位

無理のない英雄の体位

より快適に安定した姿勢にするために足幅を調え、それにともない骨盤も少し右回転します。

勢力

無理のない英雄の体位

無理のない英雄の体位

壁を押す姿勢

勢力が足から正道を通って手までスムーズに流れているかどうかは、その姿勢が力強いかどうかで確かめることができます。

壁を押す姿勢

力強く目の前の壁を押そうとしてみます。このとき筋力で押すのではなく勢力で押すことを心掛けます。つまり、後足(踵底内側)と前手(掌底外側)の直接的なツナガリが感じられるような姿勢を調べてみます。

ポイント

  • 後膝は緩ませ、鼠蹊下から踵底内側で床を捉えること
  • 前肘は緩ませ、腋裏から掌底外側で壁を捉えること

どんな足向き、どんな足幅のときリキム(筋力を使う)ことなく、力の伝わりが感じられるでしょうか? 前足向きが真っすぐ前方を向き、後足向きが真っすぐ左方を向いているのか、確かめてみましょう。

それは決して『前』や『横』や『後』や『真っ直ぐ』などとキッカリと分かることのない方向のはずです。

弓歩

中国武術にはこれと似た立ち姿勢である「弓歩(きゅうほ)」と呼ばれる歩形が伝えられています。それは勁(けい)を「足 → 脚 → 身体の中央 → 腕 → 手」という具合に相手に伝えるための姿勢といえるでしょう。

注意

骨盤後傾(背骨前屈)の姿勢では足向きはより内へ、骨盤前傾(背骨後屈)の姿勢では足向きはより外へ向きます。
例えば太極拳などは主として内旋前屈形の姿勢のようなので、弓歩においても両足の向きはより内向きになると推測できます。

何にしましても、快適で安定した姿勢とは力強い姿勢なのです。

一般的な英雄の体位Ⅱ

無理のない英雄の体位Ⅱ

さて、どちらが力強く感じられるでしょうか? あるいは、どちらが快適安定を感じられるでしょうか? あるいは、どちらに踏ん張り、頑張りなどのリキミを感じられるでしょうか?

無駄を取り除いた、無理のない姿勢を修習していきましょう。


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