脚と骨盤の一致の原理
前回のレッスンでは、正しい姿勢の原理原則である"全体一致の原理"のお話をしました。今回はその中でも、"脚と骨盤の一致の原理"に焦点を当てて、より詳しく習っていきましょう。
1.脚と骨盤のツナガリに従う
前回のレッスンでは蓮華の坐の例で示しましたが、下の図のように股関節よりも膝が適切に下方に位置していなければ、骨盤は自然と後傾するものです。
上の絵図は、拙著『ハタ・ヨガの修行法』の中で、正しい排便姿勢を解説しているものなのですが、股関節より膝が上方に位置している姿勢ですので当然、骨盤は後傾しています。さすがに「姿勢を正して排便しなさい!(骨盤を立て、背骨をS字に……)」とは誰も注意しないことでしょう。その通り、これが排便を目的としたときの正しい姿勢です。
「姿勢を正して排便しなさい!(膝を股関節より高くして、骨盤を後傾し……)」
では、ここから骨盤を起立していくとどうなるでしょうか? 膝は下方へ移動していき、踵は上がっていき、両膝は外側へ大きく開いていくはずです。膝が開いている人は、無理なく骨盤が立っている人です。膝があまり開いていない人は、無理して骨盤を立てている人であり、無理して膝を閉じている人です(あるいは骨盤が立っていない人です)。
詳しくは知りませんが、相撲取りの蹲踞(そんきょ)のような、あるいはバレリーナの1番グランプリエのような姿勢になります。相撲取りも、バレリーナも膝を大きく開いています。それを踏まえて、次の絵図を見てみます。
絵図1.
絵図2.
絵図3.
上の3つの絵図の中で、どれが正しい姿勢でしょうか。おそらくパッと受ける印象も三者三様で、絵図1は何だか重く陰気で内向的、絵図3は何だか鋭く陽気で外向的、絵図2は両極の間で朗らかといった感じでしょうか。
ヨガの用語で説明すると、絵図1はより停滞質(タマス)な姿勢であり、絵図2はより純粋質(サットワ)な姿勢であり、絵図3はより激動質(ラジャス)な姿勢となります。
ですから、ヨガの目的に従い、より純粋質に気質(エネルギー)が調いやすい絵図2の姿勢が、尾山ヨガ教室における基本の立位姿勢、つまり山の体位(ターダーサナ)です。しかし実のところ、3つの姿勢は何れも「全体一致」という原理に適っています。
つまり、どれも正しい姿勢です。
2.脚の旋回と骨盤の角度のツナガリに従う
では次に、山の体位、金剛の坐、椅子座の3つを例にして、一つずつ「脚の旋回」と「骨盤の角度」に注目していきます。
2−1.山の体位
① 内旋形の山の体位
絵図1の姿勢では、足先がより前方を向き、脚が内旋しています。そして骨盤は適度に後傾しています。
ちなみに、背骨は適度に前屈しています(「S」字の下の曲線は浅く湾曲し、上の曲線は深く湾曲している)。
② 基本形(非旋形)の山の体位
絵図2の姿勢では、足先が前外方を向き、脚が内旋も外旋もしていません。そして骨盤は起立しています。
ちなみに、背骨は前屈も後屈もしていません(中立のS字カーブ)。
③ 外旋形の山の体位
絵図3の姿勢では、足先がより外方を向き、脚が外旋しています。そして骨盤は適度に前傾しています。
ちなみに、背骨は適度に後屈しています(「S」字の下の曲線は深く湾曲し、上の曲線は浅く湾曲している)。
ヨガ指導者を含め、「姿勢」に携わる多くの人たちに「無・理」が起こるのは、この「脚と骨盤の一致」という「原理」を「無視」しているからだと言えるでしょう。それによって、「正しい姿勢=骨盤が立ち、背骨がS字カーブで……」などと部分的姿形に囚われてしまうのです。
④ 一般的な山の体位の一例
一般的な山の体位では、脚を内旋しているにもかかわらず、骨盤を起立しよう、胸骨を吊り上げよう、顎先を引こうなどと頑張っているので「不安定・不快適」であり、各所で勢力がぶつかり合い、各所に負担をかけることになります。
その上、膝を伸ばしたり、腕、手先を伸ばしたりする場合も見られ、さらに勢力(エネルギー)は滞ります。世間一般的にも堅苦しく、不自然に感じる姿勢でしょう。それにもかかわらず、近・現代のヨガ指導者に見られる姿勢です。
注意
ただし、状況や目的によっては、間違いなんてものは何一つありません。目的が変われば、その手段、その結果も変わるだけです。「目的」を誤解したとき初めて、その結果も過誤となるのです。
私は、身体を繊細に制御している
そうではないのです。それは「繊細に」ではなく「粗雑に」です。脚の状態に合わせて、骨盤の状態、背骨の状態、頭顔の状態、腕の状態、さらには停滞質、純粋質、激動質などの気質(エネルギー)の状態も、自ずから然りと定まるのです。
● 自然体位(無為による全体一致) 無理を「しない」姿勢が自然体位である。何も「しない」でも、部分の変化に協力して全体が変化する姿勢が自然体位である。即ち、勢力の流れを邪魔することを「しない」ことによって、自ずから然りと収まる姿勢、それが自然体位である。
『ヨガの太陽礼拝』P30 1.調身行法 より
2−2. 金剛の坐
金剛の坐の場合は次のようになります。
① 内旋形の金剛の坐
② 基本形の金剛の坐
③ 外旋形の金剛の坐
2−3.椅子座
椅子坐の場合は次のようになります。
① 内旋形の椅子座
② 基本形の椅子座
③ 外旋形の椅子座
繰り返しますが、どれも「正しい姿勢」です。
3.足下を正す
机に向かい、椅子に座って仕事や勉強をするとき、姿勢を正そうとする方も多いのではないでしょうか。しかし、いくら努力しても、気が付いたら猫背(前屈姿勢)になっている。そして「姿勢を正すのは疲れるなぁ……。」
そうです。その理由はただ一つです。頑張っている(無理している)からです。一般的な椅子(あるいは正坐)では、骨盤が適度に後傾し、背骨が適度に前屈するのが自然なのに、それを無視して無理矢理「骨盤を起立しよう」と頑張っているからです。
おそらくですが、テレビドラマなどの演出でも、江戸時代の武士が正坐しているときや、戦国時代の武将が床几(しょうぎ)に座っているとき、膝は外に開いていることでしょう。それは頑張っていないため、緊張のゆるんだ正しい座り方(アーサナ)なのです。
● 坐法
2-46
座り方は、安定した、快適なものでなければならない。
2-47
安定した、快適な座り方に成功するには、緊張をゆるめ、心を無変なものへ合一させなければならない。
佐保田鶴治著『解説ヨーガ・スートラ』 P112 より
足下から調えましょう。