2020-08-01

第8章 不滅の根本

バガヴァッド・ギーター:至高者の詩


蛇足と判断した詩句は非表示にしてあります。

1.アルジュナが答える。

その根本とは何なのでしょうか? 自己に関することとは何なのでしょうか? 行為とは何なのでしょうか? プルショーッタマよ。


また、現象に関することと述べられたことは何なのでしょうか? 神に関することと言われることは何なのでしょうか?

※ クリシュナ

2.

祭儀に関することとは何であり、その際この身体においてどのようにして執り行われるのでしょうか? マドゥスーダナよ。


また、死にぎわにおける自制心ある制御された自己たちに、どのようにしてあなたの存在が理解されるのでしょうか?

※ クリシュナ

3.威光ある至高者が答える。

不滅の根本とは何より優れた最高の者です。自己に関することとは自らの本性のことと言われています。根源から生じた現象が現れでることが行為と知られています。

4.

現象に関することとは消滅生起のことです。そして神に関することとは魂※1のことです。祭儀に関することとは、その際に身体において私として執り行うことです、身体を所有する者たちのなかで最上の者※2よ。

※1 プルシャ ※2 アルジュナ

5.

また、死にぎわにおいて私を想い起こす者は、身体から解放されてから私の存在に向かって行く者です。その際、その者は疑いなく(私として)在るのです。

6.

また、身体を放棄する最期において想い起こしている様々な心理状態に(従って)様々なところ行くのです。妃クンティーの息子よ、いつのときもそれは想い起こさせられた心理状態(に従うの)です。

※ アルジュナ

7.

ですからあなたは、すべての時のなかで私を想い起こしなさい。そして私のなかに置かれた思惟器官と知覚器官と(が私から彷徨いでていかないように)戦いなさい。あなたは疑いなく私に到達することでしょう。

8.

修習のヨガにつなぎ止められることによって、他のものに向くことのない意志によって、想い起こさせている何より優れた最高の神なる魂※1に赴くのです、妃プリターの息子※2よ。

※1 プルシャ ※2 アルジュナ

9.10.

死にぎわにおいて正しく眉間に気を入れたのなら、不動の心意によって、また至高者を信愛すること※1によって、つなぎ止められたヨガの力によって、


精妙なものより精妙、想像不可能な姿形、すべての支持者、(闇に覆われた)停滞質※2から遠く離れた(光輝く)アディティに属する種姓である太古の賢人、教師


を想い起こすであろう者は、何より優れた最高の神なる魂※3のもとに行く者です。

※1 バクティ:至高者への献身 ※2 タマス:停滞質・隠覆性 ※3 プルシャ

11.

聖典※1を知る者たちが不滅のものと告げるもの、貪愛から離れた修行者たちが落ち着くところ、根本に従う生活※2をする者たちが探求しているもの、私は完全さをもってソレをあなたに告げましょう。

※1 ヴェーダ ※2 ブラフマチャリヤ(梵行)

12.13.

すべての(外界への)門を制止し、内奥に心意を閉じ込め、自己の気を眉間※1に固定して、「オーム」という唯一不滅の根本(を示す原初音※2)を唱え、


私を想い起こし、ヨガ瞑想に留められ、出て行く身体を放棄している者。その者は、何より優れた最高の行きどころに行きつきます。

※1 原文は「頭頂、最高位、先端」 ※2 プラナヴァ

14.

いつのときも意志を絶やさず常に私を想い起こし、常につなぎ止められているヨガ行者にとって、私は発見しやすいことでしょう、妃プリターの息子よ。

※ アルジュナ

15.

私に赴き、苦しみの住処である儚い再誕生に遭遇することのない大我は、何より優れた最高の達成に連れて行かれたのです。

※ マハートマン:偉大な自己、真我

16.

アルジュナよ、天国から地獄に至るまでことごとく、諸々の世界とは(何度でも)再帰する世界なのです。しかし妃クンティーの息子よ、私のもとに赴いたのなら再誕生などありはしないのです。

※ ブラフマブヴァナ:梵天界

17.

根本の万年かけて終わる昼、万年かけて終わる夜を知った者は、昼夜を知る人々です。

※ 千ユガ

18.

夜が明け(目覚め)ると非顕現からすべての顕現が現れでます。夜にな(り眠)るとそれらはそこで、非顕現と呼ばれるもののなかに溶解されるのです。

19.

現象の集まりであるこの顕現は、現れでても、現れでても、夜にな(り眠)るとその意思にかかわらず(非顕現のなかに)溶解されるのです。


妃プリターの息子よ、夜が明け(目覚め)るとそれらは(その意思にかかわらず非顕現から)現れでるのです。

※ アルジュナ

20.

しかし、これより高い他の存在であり、永遠の非顕現から現れでることのないもの。これは万象が消失されようとも失われることはないのです。

21.

非顕現は不滅のものと言われています。何より優れた最高の行きどころと呼ばれるこれに到達したのなら、その者たちは(諸々の世界に)再帰することはないのです。それが何より優れた最高の私の住居なのです。

22.

妃プリターの息子よ、この至高の魂※1はソレを信愛すること※2に傾倒することによって見いだされるものです。現象はソレの内に現れるものであり、すべてであるソレによって満たされているのです。

※1 プルシャ ※2 バクティ

23.

バラタルシャバよ、死を迎えたヨガ行者たちが、どのような時期に不再帰に、また再帰へと赴くのか、その時期について私は告げましょう。

※ アルジュナ

24.

火、光、昼、白月、太陽が北上する6ヶ月の時期に(象徴される無智の闇を払い除けた)根本を知る人々が死を迎える場合、根本(不再帰)に赴きます。

25.

煙、闇夜、黒月、太陽が南下する6ヶ月の時期に(象徴される無智の闇に覆われ未だ根本を知らない)ヨガ行者が死を迎える場合、月の光輝(のような善行者の赴く天界)に到達してから再帰へ赴きます。

26.

この明暗2つの分かれ道は、人々にとって永遠(の真理)と見なされるものです。一つは不再帰に行き、もう一つは再び転じるのです。

27.

妃プリターの息子よ、この2つの道が理解されているヨガ行者は誰も惑わされることはないのです。ですから、すべての時においてヨガにつなぎ止められる者でありなさい、アルジュナよ。

※ アルジュナ

28.

これを知って、聖典、祭儀、また苦行、布施において定められた善行の果報のすべてをやり過ごすヨガ行者は、何より優れた最高の原初なる立場に赴くのです。


第8章 解説

「不滅の根本」と題されているように、不滅の根本について、クリシュナが説明しています。ここでの「根本」の原語は『brahman(ブラフマン)』であり「全世界を支配する原理」などを示しています。また第8章では、諸々の世界への再帰を終焉させる「明道」と、諸々の世界への再帰を繰り返す「暗道」の2つの道について説かれています。

要点

アルジュナよ、不滅の根本とは何より優れた最高のものであり、決して現れでることのない万象の根源であり、始まりも終わりもない原初の立場であり、そして私の本性です。この私は万象の遥かかなたに在り、万象に関わってはいませんが、私の自然性という自己幻術によって万象は自ずから私のなかに現れでて、そして私のなかに消えさるのです。

あなたは不滅の私のもとへ来るために、坐っているときに限らず、目覚めているときはいつのときも、油断なく私に心意がつなぎ止められているべきです。努力なく心意が不動になるとき、あなたは私の本性である根本を知ることでしょう。そして、無智の覆いが払い除けられたあなたは、もはや諸々の世界に回帰することはないと自身で明確に覚ることでしょう。

一方で、無智に覆われている者たちは、自身の本性を知らぬまま諸々の世界を彷徨い続けます。悪行により地獄に堕ちては地上に帰り、善行により天国に昇っては地上に帰り、善行と悪行を為している行為者として果てしなく転生を繰り返しているのです。この輪から解放されるには、悪行も善行も放棄し、行為者としての自身を放棄しなければなりません。

好き嫌いに基づく意図的な行為、差別知見が、自己の本性を覆い隠しているのです。好きを求めようとする意図、嫌いを避けようとする意図を放棄しなさい。自然と来るものを拒むことなく自然と去るものを追うことなく享受しなさい。あるいはあなたの行為は私の自然性に完全に支配されていることを調べなさい。なによりも私に心を寄せ、いつのときも私を忘れずに覚えておきなさい。


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