2019-10-02

腕と背骨の一致の原理

正しい姿勢を一から習う

初回のレッスンでは、正しい姿勢の原理原則である"全体一致の原理"のお話をしました。今回はその中でも、"腕と背骨の一致の原理"に焦点を当てて、より詳しく習っていきましょう。

初回のレッスンはこちら

レッスン1

1.腕と背骨のツナガリに従う

最初のレッスンでは蓮華の坐の例で示しましたが、下の図のように腕を前方へ方向付けたり、脚の上に置いたりすると、背骨は自然と前屈''する''ものです。

1−1.金剛の坐1

金剛の坐1

前後左右のバランスが重力と調和しつつ全体が一致し、余計な緊張から解放されている正しい姿勢です。腕が全体と調和しつつ自立しているような状態であり、腕の重みが中胸を通り下腹に流れているため、背骨は中立し、骨盤は起立しています。

これが、いわゆる気が入った姿勢であり、腰の入った姿勢であり、臍下丹田に気が集まった姿勢です。下腹に勢力(流れとしての力)が集まっている訳です。

ヨガ指導者を含め、「姿勢」に携わる多くの人たちによくある勘違いですが、「丹田に気を集める」などと表現される行為は、下腹に''筋力を入れた''状態ではありません。

1−2.金剛の坐2

金剛の坐2

前後左右のバランスが重力と調和しつつ全体が一致し、余計な緊張から解放されている正しい姿勢です。腕が全体と調和しつつ依存しているような状態であり、腕が腑抜け脚の上に置かれています。腕の重みが脚に流れ、その反作用で勢力が背側へ流れるため、背骨は前屈し、骨盤は後傾しています。

これが、いわゆる気が抜けた姿勢であり、腰の抜けた姿勢です。勢力はアッチコッチ四分五散し、下腹に集まっていない訳です。

1−3.金剛の坐3

金剛の坐3

前後左右のバランスは重力と調和しているものの全体が一致しておらず、余計な緊張に束縛されている誤った姿勢です。絵図2のように腕が脚に置かれているにもかかわらず、背骨を中立させ、骨盤を起立しようと無理をしている姿勢です。

これが、いわゆる気張った姿勢であり、腰を入れた姿勢であり頑張った姿勢です。勢力はアッチコッチで衝突し合い、流れが滞っている訳です。

ヨガ指導者を含め、「姿勢」に携わる多くの人たちの推奨する正しい姿勢でしょう。筋力を入れていないと崩れてしまいますから、言葉がけも「腹に力を入れて」などとなるのでしょう。

2.腕の拳上と背骨の屈曲のツナガリに従う

では次に、挙手の体位を例にして、「腕の挙上方向」と「背骨の屈曲」に注目していきます。

絵図1.拳手1

拳手1

絵図2.拳手2

拳手2

絵図3.拳手3

拳手3

上の3つの絵図は、拙著『ヨガの太陽礼拝』の中で、内旋形、基本形、外旋形のそれぞれの姿勢で、「拳手の体位(手を上に挙げた体位)」へ移行する途上を表した姿勢です。

では、一つずつ「腕」と「背骨」に注目していきます。

挙手の体位

① 内旋形の拳手

内旋形の拳手


絵図1の姿勢では、腕がより前方を通り、背骨が前屈しています。

つまり、腕がより前方へ挙がれば、背骨はより前屈するのです。逆に、背骨がより前屈しているときに腕を挙げれば、腕はより前方を通るのです。

絵図では脚が内旋していますが、基本形でも同じです。

② 基本形の拳手

基本形の拳手


絵図2の姿勢では、腕がより前外方を通り、背骨は前屈も後屈もしていません(中立)。

つまり、腕が前外方へ挙がれば、背骨は中立するのです。逆に、背骨が中立しているときに腕を挙げれば、腕は前外方を通るのです。


③ 外旋形の拳手

外旋形の拳手


絵図3の姿勢では、腕がより外方を通り、背骨は後屈しています。

つまり、腕がより外方へ挙がれば、背骨はより後屈するのです。逆に、背骨がより後屈しているときに腕を挙げれば、腕はより外方を通るのです。

絵図では脚が外旋していますが、基本形でも同じです。

ヨガ指導者を含め、「姿勢」に携わる多くの人たちに「無・理」が起こるのは、この「腕と背骨の一致」という「原理」を「無視」しているからだと言えるでしょう。それによって、「正しい姿勢=骨盤が立ち、背骨がS字カーブで……」などと部分的姿形に囚われてしまうのです。

一般的なヨガでは、「前方(真正面)」や「外方(真側面)」などを通して腕を拳上しています。それは身体の原理にではなく、頭脳(言葉とイメージ)に従い、思いのままに身体を制御しているということです。


私は、身体を自由に制御している。


そうではないのです。それは「自由に」ではなく「自分勝手に」です。背骨の状態に合わせて、腕の状態、骨盤の状態、頭顔の状態、脚の状態、さらには停滞質、純粋質、激動質などの気質(エネルギー)の状態も、自ずから然りと定まるのです。

● 自然体位(無為による全体一致)

無理を「しない」姿勢が自然体位である。何も「しない」でも、部分の変化に協力して全体が変化する姿勢が自然体位である。即ち、勢力の流れを邪魔することを「しない」ことによって、自ずから然りと収まる姿勢、それが自然体位である。

『ヨガの太陽礼拝』P30 1.調身行法 より

3.手元を正す

机に向かい、椅子に座って仕事や勉強をするとき、姿勢を正そうとする方も多いのではないでしょうか。しかし、いくら努力しても、気が付いたら猫背(前屈姿勢)になっている。そして「姿勢を正すのは疲れるなぁ……。」

そうです。その理由はただ一つです。頑張っている(無理している)からです。たとえ骨盤が自然と起立する姿勢であっても、腕が机の上にドスンともたれていては、背骨が適度に前屈し、骨盤が適度に後傾するのが自然なのに、それを無視して無理矢理「骨盤を起立しよう」と頑張っているからです。

おそらくですが、テレビドラマなどの演出でも、江戸時代の子供が机を前に正坐し本を読んでいるときや、武士が机を前に正坐し筆で手紙を書いているとき、腕は机にもたれていないことでしょう。それは頑張っていないため、緊張のゆるんだ正しい座り方(アーサナ)なのです。

● 坐法

2-46

座り方は、安定した、快適なものでなければならない。

2-47

安定した、快適な座り方に成功するには、緊張をゆるめ、心を無変なものへ合一させなければならない。

佐保田鶴治著『解説ヨーガ・スートラ』 P112 より

手元まで調えましょう。

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