2013-10-19
脳の三層構造説
脳の機能的分類
アメリカの神経生理学者ポール・D・マクリーン氏(1913~2007)の脳の三構造説における脳の構造について考察していきます。
1973年、氏は人間の脳の構造と行動様式を、「生物の進化の過程」と「動物の原始的な本能」から説明することを試みて、『脳の三層構造の仮説:人間の脳は「爬虫類脳、旧哺乳類脳、新哺乳類脳」の三つから構成されている』を提示しました。
以下、尾山の勝手な解釈も含め便宜的にまとめてあります。参考程度にどうぞ。
1.爬虫類脳(反射脳・古皮質)
進化の過程において最も古く発生した脳です。生理的作用(自律神経系)の中枢である「脳幹」と、随意運動の中枢である「大脳基底核」からなる。感覚を司り、生命活動全般の調整を機能させている。
2.哺乳類脳(情動脳・旧皮質・旧哺乳類脳)
進化の過程において爬虫類脳を覆うように発生した脳です。本能的認知・判断および、記憶・記憶との照合認知により瞬時の判断をする「大脳辺縁系」からなる。感情を司り、本能と学習による認知を機能させている。
3.人間脳(理性脳・新皮質・新哺乳類脳)
進化の過程において大脳辺縁系を覆うように発生した脳です。左脳による言語/右脳による表象による観念を認識する「大脳新皮質」からなる。理性を司り、人間の知的活動全般の調整を機能させている。
表1.特性
爬虫類脳 | 旧哺乳類脳 | 新哺乳類脳 | ||||
脳部位 | 脳幹・大脳基底核 | 大脳辺縁系 | 大脳新皮質 | |||
中枢 | 視床 | 扁桃体 | 左脳 | 右脳 | ||
認知 | 感覚知覚的 | 感情知覚的 | 言語的 論理的 聴覚的 | 表象的 空間的 視覚的 | ||
思考 | 想像 | |||||
観念識別的 | ||||||
反応 | 遺伝的 本能的 潜在的 | 遺伝的+学習的 本能的+知能的 潜在的+顕在的 ※ | 学習的 知能的 顕在的 | |||
質感 | 身体的 感覚的 | 心身的 感情的 | 心理的 理性的 |
知能により学習した情報を反射的に行動に移す「無意識的」反応ともいえます。
回避機能
1.爬虫類脳(反射脳・古皮質)
この部位は、「危険」と遺伝した対象を、感覚的な不快感として知覚認知し、それを回避しようとする。回避反応は、「逃げる・闘う・凍りつく」であり、威嚇もする。主な不快感は「恐怖感」として知覚認知される。
2.哺乳類脳(情動脳・旧皮質・旧哺乳類脳)
この部位は、「不必要」だと学習した対象を、感情的不快感として知覚認知し、回避しようする。回避反応は、「離れる・攻撃する」である。主な不快感は、「憤怒感」として知覚認知される。
3.人間脳(理性脳・新皮質・新哺乳類脳)
この部位は、「無価値」だと学習した対象を、観念的不快感として知覚認知し、回避しようとする。回避反応は、「隠蔽的」である。主な不快感は、「羞恥感」として知覚認知される。
表2.回避機能
爬虫類脳 | 旧哺乳類脳 | 新哺乳類脳 | ||||
認知 | 快感 | 不快感 | 快感 | 不快感 | 快感 | 不快感 |
安全 | 危険 | 必要 | 不必要 | 価値 | 無価値 | |
反応 | 平安的 平静的 活動的 | 逃走的 闘争的 凍結的 | 近接的 交遊的 活動的 | 遠離的 攻撃的 凍結的 | 肯定的 活動的 | 否定的 凍結的 |
質感 | 安息感 安楽感 安定感 開放感 弛緩感 吸引感 鎮静感 ――――― 豊感覚 生力感 充実感 柔軟感 軽快感 | 恐怖感 苦痛感 偏重感 閉塞感 緊張感 反発感 興奮感 ――――― 無感覚 無気力 空虚感 硬直感 鈍重感 | 愛好感 受容感 安堵感 安心感 歓喜感 友愛感 愉楽感 ――――― 豊感情 熱情感 温情感 情愛感 明朗感 | 嫌悪感 拒絶感 焦燥感 緊張感 憤怒感 憎悪感 悲痛感 ――――― 無感情 無感動 冷血感 冷淡感 陰鬱感 | 自尊心 正義心 優越心 尊敬心 重視心 称賛心 服従心 ――――― 合理性 好奇心 希望心 願望心 冷静心 | 羞恥心 罪悪心 劣等心 軽蔑心 軽視心 罵倒心 反抗心 ――――― 無理性 無関心 絶望心 失望心 動転心 |
これだけではなく感覚、感情、観念認識から心の反応は様々といえるでしょう。
身体的関連
1.爬虫類脳(反射脳・古皮質)
人は「恐怖」を感じると、肛門部・骨盤底部・下腹部をギュッと緊張させると考えられます。ですから高いところに立ったり、傷を見たりすると、骨盤底部や下腹がザワザワと感じたりします。
大胆で度量のある人を「ケツの穴が太い」、逆に度量の小さい人を「ケツの穴が小さい」などと表現したり、何事にも動じず落ち着くことを、「腹/胆が据わる」などと表現します。
2.哺乳類脳(情動脳・旧皮質・旧哺乳類脳)
人は「憤怒」や「悲痛」を感じると、上腹部・胸部・首部をギュッと緊張させて我慢すると考えられます。
怒りを感じることを「腹が立つ」「腹の虫がおさまらない」「胸糞が悪い」などと表現しますし、悲しみを感じることを「胸が痛む」「胸が苦しい」「胸が張り裂ける」「胸が締めつけられる」などと表現します。また、我慢することを「胸にしまい込む」「辛抱する」「歯を食いしばる」「怒りを噛み殺す」などと表現します。
3.人間脳(理性脳・新皮質・新哺乳類脳)
人は「隠蔽したい自分を露呈」してしまったとき「羞恥」を感じ、頭に血が上り赤面したりします。それは、危険を認知した旧哺乳類脳と爬虫類脳が、危険回避のための反応を起こすからだと考えられます。
たとえば「オナラをする→笑われる→危険」と新哺乳類脳が学習したとします。自分が他人の前でオナラをしたことを認知すると、旧哺乳類脳が「羞恥感」を生み、爬虫類脳が「ドキドキと頭に血を上らせる」ことをします。
表3.身体的関連
身体部位 | チャクラ | ツボ | 中枢神経 | |||
新哺乳類脳 | 頭部 | 頭頂部 | ● サハスラーラ (第7チャクラ) | 百会 | 大脳皮質 | |
眉間上部 | ● アージュニャー (第6チャクラ) | 印堂 (上丹田) | 脳下垂体 松果体 | |||
旧哺乳類脳 | 胸部 | 首部 | ● ヴィシュッダ (第5チャクラ) | 廉泉 | 頸椎1番 頸椎2番 | |
胸部 | ● アナーハタ (第4チャクラ) | 膻中 (中丹田) | 胸椎4番 胸椎5番 | |||
上腹部 | ● マニプーラ (第3チャクラ) | 巨闕 | 胸椎11番 胸椎12番 | |||
爬虫類脳 | 骨盤部 | 下腹部 | ● スワディシュターナ (第2チャクラ) | 気海 (下丹田) | 仙椎 | |
骨盤底部 | ● ムーラダーラ (第1チャクラ) | 会陰 | 尾椎 |
脳の3層構造説 まとめ
我慢(感情の抑圧)による各部位の筋緊張を弛緩し、溜め込まれたエネルギー(ストレス)を発散することは、神経系の興奮を鎮静化すると考えます。
それは、「新哺乳類脳~旧哺乳類脳~爬虫類脳~脊髄という中枢神経全体をつなぐ」ことにつながり、それは神経伝達のみならず全体的な働きをスムーズにしていくことになるだろうと考えます。
それはまた、「顕在意識と潜在意識をつなぐ」ことでもあり、「心と身体をつなぐ」ことでもあり、骨盤底部から頭頂部へのエネルギーの流れをスムーズにしていくことでもあると考えられ、それがハタヨガの技法の目的でもあるのです。